ニコの歌手としてのキャリアは不安定であった。もしかするとヴェルヴェット・アンダーグラウンドが67年に発表した、デビュー・アルバムに収録された3曲でその歌手生命が終わっていた可能性もある。しかし、たとえそうであっても、彼女のなぞめいたオーラは簡単には消え去ることはない。映画『甘い生活』の花形歌手として自らを売り出したり、アンドリュー・ルーグ・オルドハム経由でポップ・スターの役割を演じようと試みたりしたが、いずれもうまくいかなかった。そして最終的にはアンディ・ウォーホールのファクトリーで繰り広げられる、ドラッグまみれのダークな世界に自らの居場所を見つけることになる。ドイツ語アクセントの残るはきはきとしたヴォーカルは、ヨーロッパ文明の香りを漂わせるルー・リードやジョン・ケイルの生みだす、芸術専門学校的音楽世界にぴったりマッチした。しかしソロとなってからは悪化の傾向にあった薬物依存の影響を作品に映し出すと同時に、ジョン・ケイルのダークな世界を強く反映した。さらに70年代〜80年代を通じて音楽活動はますます散発的なものになり、やせこけた相貌がかつての美貌に取って代わることになる。芸術専門学校の歌姫からゴシック・ミュージックの先駆者になったニコの音楽人生は、悲劇的ではあったもののその分影響力も強かったが、88年の死によってそれは突然の結末を迎えてしまう。